空には眩しく輝く太陽、白い雲。今日も暑い夏の日。
地には大きな地震でもあったのかと思うほどの大きな亀裂、薄汚い浮浪者達。今日も憂鬱な夏の日。
「なあマサキ、最近は嫌な世界になったよなあ」
昼の道路、安藤マサキは友人の一人といた。
歳は15,6歳位だろうか?それなりに身長が高く細身で、やや長めでぼさぼさの髪をしている彼は薄汚い衣服に身を包み、何やら落ちている金属を集めている。
「最近?俺らが生まれてから何も変わってはいないだろ」
「そりゃそうだ。今のもどっかのジジイの真似だ」
友人は笑う。
「正確には…『使徒戦争』が終わった日だろう。世界が変わったのは」
マサキは溜息をついて。
「『使徒戦争』か…俺の両親もそれで死んだらしい」
「…そうか」
友人はそれ以上は会話を続けようとはしなかった。それ以上、胸クソ悪い話を聞く事は無い…
EVA//Extra Impact
episode01 new genesis
A-part
『使徒戦争』から10年。
第三新東京を襲った恐怖は無くなり、誰もが喜んだ。
それが、つかの間のものであるとは知る由も無く――――
「ふう…」
マサキは溜息をついた。
彼の住む第三新東京では…いや、世界中どこでも珍しくも何とも無い光景が目の前にはある。
「貴様、SEELEの手先か!」
「ひい…そんなことは」
数人の黒服が銃をつきつけて一人の少女を取り囲んでいる。周りには全く野次馬などできず、皆こそこそと逃げている。
所謂『SEELE狩り』だ。
特務機関NERVは、10年前の『使徒大戦』において『人類補完計画』という人為的にサードインパクトを起こそうとする計画を阻止した事で有名な機関である。
その影響力を利用して、何をしているかというと…SEELE残党の処理。世界の復興などは考えずに。それはNERVの中で『人類補完計画』に関わった幹部が国連により拘束された事によって繰り上がって司令となった元作戦部長の思惑である。彼女は激しく暴走していた。今するべき事が使徒との戦いによって疲弊した国力の回復であるのは言うまでも無いことなのに、ひたすらにSEELEを追いつづけているのだから。その上、直接的な被害は日本だけだったものの、他国でも状態は深刻だった。NERVに徴収された莫大な資金は帰ってくる筈など無いからだ。
『SEELE狩り』、それは彼女の私怨によるものである事は使徒戦争の中心部にいた者にとっては周知の真実である。
NERVは…『総司令』葛城ミサトは自分達の暴走に気づいてはいなかった。
目の前の光景には吐き気がする。それは皆も同じだろう。厳つい黒服の男がよってたかって一人の女の子を攻めたてているのは、どう考えても異様で、嫌悪すべきものであった。
その子の何所がSEELE残党なんだよ、どう見てもただの小学生じゃないか。マサキは自分がどうしようもなく怒っているのを感じる。お前らのせいで、俺は――
「…やめろ!!」
思わず叫んでしまった。自分でもヤバイと思う。それでは、自分も――
「貴様も仲間か!」
「あ…ええと…」
どもるマサキ。それが黒服には肯定に見えるらしい。
「ちょっと来てもらおう!」
「お、おい…」
友人が止めようとするが、マサキはそれを止める。お前まで俺に付き合う事は無い、そう目で語って。
「まったく…SEELE思想など勉強せずに子供は学校の勉強でもしていれば良い!」
すっかり深夜になった。NERV本部、取調室。何も装飾品の無い狭苦しい空間にパイプ椅子が二つ、テーブルが一つ。通称『拷問室』。そこにマサキはいた。
さっきから黒服の説教が続いている。暴力が無いのが幸いか。別にマサキを気遣っての事ではない。民間人に暴力を振るうなどという事が国連の機関で起こっては、色々と彼らにとって不味いこととなるからだ。
「何が勉強してろだ…お前らのお陰で俺は学校なんて行かずに働かなきゃいけないってのに」
ぼそりと一言。
「まだ反省していないのか、貴様を一週間の拘束とする!」
しっかりとそれは黒服の耳に届いていた。
「反省すんのはお前らの方だ!お前らのせいで俺達がこんな生活をしなくちゃいけないんだぞ!」
「黙れ!SEELE狩りは我等の使命。それを決断した葛城司令に間違いは無い!」
「そんな事ばかりしているから、ちっとも戦いが無くならないんだ!」
「我等は大いなる脅威に備えているだけの事。目先の事ばかり考えるのは愚か者である!」
「何が脅威だ!『大いなる脅威』ってのはお前等だろうが!」
「NERVを侮辱する気か…貴様の拘束は二週間だ!」
そう言い残し黒服は去っていく。
一人『拷問室』に残されたマサキは備え付けのパイプ椅子に座りこんだ。
『NERV』壁にかかれたそのマークを忌々しげに睨む。
彼は使徒の事を知らない。正確に言うと、覚えていない。その頃の彼はまだ幼い子供だった。両親の愛を受けて育つ、普通の子供だった。
何でこんな事になったんだ?そう思わずにはいられない。NERVさえなければ、SEELEさえなければ、使徒さえなければ…何か一つが欠けていればこんな事にはならなかった筈なのに。しかし現実はさながらパズルの様にピースが隙間なくはまっている。
「ちくしょう…」
それは世界に対する不満か、それともこの大きな世界に対しての己の無力さを呪ったのか。どうとでも取れる複雑なものだった。
「EVANGERION−mk2?」
マサキの『取り調べ』とほぼ同時刻、EVAゲージには真新しい3体の機体が。それの周りをアリのように作業員達は群がり調整を行っている。
「ええ…第二次E計画の主軸となる機体です。従来のEVAの軍事転用をテーマにして考えられたもので、SS機関と搭載しています」
それを見つめる二人の人影。一人は女性、もう一人は男性。
「そう…それならSEELEの奴等を根絶やしにできるわね…」
女性は酷く残酷な笑みを浮かべる。それを男の方は悲しげな顔で見つめる。
女性の名前は葛城ミサト。特務機関NERVの司令であり、使徒戦争の英雄。そして現代の悪魔。
彼女は病んでいる。自分の恋人と父親を殺した組織、SEELEを壊滅させる事だけが彼女の全てだから。…そう、その結果として世界がどうなろうとも。
男性の名前は日向マコト。特務機関NERVの司令補佐であり、葛城司令と同じく使徒戦争の功労者の一人。そして悪魔に手を貸す男。
彼は悩んでいる。隣りの女性がどんどん狂っていくのが分かるから。…それを止めるだけの力が自分には無いから。
『敵機接近!!目標地点はここと思われる、注意せよ!!』
突然響き渡るアナウンス。モニターには三機の巨人の影が。
「ふん…EVAを出すまでも無い。PTで対応しなさい」
ミサトは手早く指示を出した。
PT(パーソナルトルーパー)とは、NERVの根幹を支えるともいえるEVAに対抗するために作られた兵器である。それはEVAほどのパワーもスピードも無かったが、ただ一つだけ…最も重要な一点においてのみ勝っていた。
PTはパイロットを選ばないのである。老若男女だれでも搭乗でき、EVAに劣るもののA.T.Fieldの展開も可能としている。
しかし、当初は対抗組織のみの兵器であったPTも、次第に情報の漏洩からNERVにも配備されることとなってしまう。NERVに対抗するべきものがNERVの戦力となるとはなんとも皮肉なものである。
そして、さらに便利な『戦争の道具』を手に入れたNERVは、ますます勢力を増していく…
真っ暗な闇の中、ずしんと轟音。森林地帯の樹木をなぎ倒し進む影が三つ。PTである。それがNERVの戦闘施設からの攻撃を受けているためNERVに敵対する組織のものだと分かる。
NERVに敵意を持つ組織は、『使徒戦争』の時でさえ「両手両足の指で数え切れない」と言われたほどで、今では「太陽系の星の数より多い」と言われるほどになっている。
彼らもそのうちの一つであろう。リーダーだと思われる紅いPTが先陣を切り、砲台などをA.T.fieldで防御している。
『二人ともいい?今回の任務は新型EVAの奪取。それ以外のものは無視して』
『了解』
『了解』
彼らはどんどん突き進む。幸いにも、いや彼らの下調べの賜物だろう、丁度彼らの出現位置にはPTもEVAも配備されていなかった。
「これって…もしかしてチャンスなのか?」
取調べの外からは爆音。それに混じって悲鳴、怒号も。鉄格子越しに閃光が見える。外では黒服やら技術者やらがバタバタと慌しい。さっきまでいた見張りも何所かに行ってしまった。
逃げるなら今だ。
マサキは思案する。こんな馬鹿どものねぐらに何時までも大人しくしていてやる必要はナノ単位程も存在しない。
しかし、当然ながら扉にはカギがかかっている。そしてマサキはカギ開けなど器用な真似は出来ない。
どうしたものか…。マサキは狭い部屋の中をウロウロと落ち着かない様子で歩き回る。その時だった。
ドガアアアン!!
「うわ!!」
自分の部屋の近くから、急に爆音が。そうだ、音が聞こえるってことは近くで…
そう考えるとますます逃げたくなる。こんな所で人生の幕を下ろす気は毛頭無い。
マサキは辺りをぐるりと見回した。半分瓦礫の山と化した室内には、
「ラッキー…」
この爆発で空いたと思われる穴があった。
マサキは走っていた。
非常事態だったためか幸いにもマサキの動向に気を配っている者などいない。
エレベーターに乗り、ジオフロントに出る。
左手の腕時計を見ると真夜中。暗いはずのここは、サーチライトと爆発によって昼間並の明るさを備えていた。
逃げようと辺りを見まわす。
(………!!)
マサキからほんの100メートル位しか離れていないところに、PTなら5秒もかからない距離に、三機のPT。紅いものが一つ、黒いものが二つ。『使徒戦争』の時に実戦配備されていたEVA零号機の色を変えて全体的にずんぐりさせた印象を受ける。
「NERV」ロゴの入った戦車や砲台に攻撃されている事で、それが騒ぎの元だという事は容易に判断がつく。
PTはEVA程のA.T.fieldの出力が無いため、パイロットによっては通常兵器も効果がある場合がある。しかし、紅いPTに関してはミサイルなどそよ風だと言わんばかりに堂々とA.T.fieldを展開し、突き進んでいる。
「…おっと、早く逃げないと!」
あまりにも堂々とした紅いPTに一瞬見とれていたマサキだったが、すぐさま自分の今の状況を思い出して、少しでもPTから遠ざかろうと走り出した。
深い森の中、閃光で葉が光るほかには特に明かりは無いその場所。
「この位走れば…」
10分ほど全力疾走したマサキは、これ以上無いほどに疲れていた。酸素を一斉に失った肺が悲鳴を上げる。
しかし、まだ安全とは言い難い。目立たない様に森林地帯に入り、大分距離は取ったものの、いきなりこっちに来てもおかしくない程度には近い。
聞こえてくる爆音をバックに、マサキは歩き出した。とにかく戦闘地域から遠ざかろうとしただけだったのだが、マサキは運がなかったらしい。
「貴様、何をしている!」
後ろからいきなりの怒鳴り声。それは間違い無く自分に向けられている。恐る恐る振り返ってみると、そこには黒服の皆さんが。
「え、ええと…」
マサキはそう言いつつも辺りを見まわした。逃げ込めるような場所は…自分の後ろには建物があり、がやがやと声がここにも聞こえてくる程だ。前には見ての通り黒服の皆さん。横には深い森が広がっていて、どうにも進めそうにはない。
……という事は、答えなど一つ。
マサキは後ろに駆け出した。
そこには何の助けも希望も感じてはいなかったものの、そうするほかに道など無かった。
「ふっきれたか……?」
マサキは建物の中のトイレの中に隠れていた。流石にこの状況で用を足そうとする暢気な連中はいないだろうし、追っ手も詳しく調べる余裕は無いはずだ。
どさりと便座の上に腰を下ろし、一息つく。
(俺は…NERVに喧嘩売って捕まって、いきなりNERVにPTが来て…俺、死ぬかもしれなくて)
先刻までの騒動で麻痺しかけていた恐怖心が戻ってくる。
(そうだ、こんな所で俺が死んでも誰も気づいてくれない。『どこにいったんだろう』で済まされてしまうぞ―――)
そう考えると体が震えてくる。彼の人生は碌なものではないが、だからこそそのまま終わりたくないのだ。
キョロキョロと辺りを見まわす。何か無いかどうか必死で確認する。
当然ながら四方は壁。しかし、天井には、ダクトがあった。
(おお…)
限りない幸運である。
そう思って彼は便器を踏み台にしてダクトのしきりを取り外して、中へと入っていった。
――結果的に、彼にとって幸運であったのかは、些か疑問が残るのだが。
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