辺りには一面の緑が広がる。

空の青と相俟ってそれは美しい様相を写し出している。

あまりに広大なこの草原は個人の邸宅の庭には些か似つかわしくない。

しかしながら、それの中央に聳え立つ城と言っても差し支えの無いような豪邸が、それを示していた。

空は快晴、大地は穏やか。だが、何故かそこが纏う空気は陰鬱なものだった。

 

EVA//Extra Impact

episode03 Third Children

 

 

その豪邸の主は碇シンジという。この時代なら知らぬ者のいない有名人、世界を救った英雄、NERVのサードチルドレン、EVA初号機パイロット。

彼を形容する言葉は数多い。それが彼の示した功績を物語っていた。

碇シンジは「使徒戦争」においての第参使徒との戦い「第一時直上決戦」を始めとして、SEELEとの決戦となった「サードインパクト騒乱」まで武勇伝には事欠かない。彼は「使徒戦争」をNERVの勝利に導いたのだ。それが今の彼の生活に大きく影響していた。

彼の現在の住居となるこの豪邸もその一部に他ならない。彼の場合……いや彼に限らず当時のNERVの上層部はチルドレンに対して消える事の無い傷を負わせた、だからこれで勘弁してくれ。という、NERVには謝罪以外にも打算が多分に含まれたのだろう。彼を体よく監視するための計算も。しかし彼はそれが分かっていたが別段何も言うことはなかった。

彼は他のチルドレンについては実は何も知らない。知りたくなかった、というのもあるだろう。彼にとって仲間を思い出すのは勇気が要ることでもあった。ファーストチルドレンについては本当に何も分かっておらず、現在も捜索中ということになっている。最後の時、彼の垣間見た「アレ」を他人に説明する気にはどうしてもなれなかった。セカンドチルドレンは最後の時に精神崩壊から復活し、EVA量産型と交戦していたのを彼は見ている。彼女はその戦いの後も生き残った筈だが、彼には彼女に会うだけの勇気がなかった。どこかで彼女も幸せに暮らしているのだろう、そう思うことにしている。フォースとフィフスについては……彼らに纏わる想い出は碇シンジにとっては悪夢そのものだった。フォースは今もどこかで生活している筈だが、何処だかは知らない。知ろうともしなかった。彼はある意味ではフィフスだけについては把握していた。しかし、彼がそれを語ろうとしないところからそれも碌な事でないことが覗える。

今の彼が何を思うのかは分からない。しかし、彼は戦いを望んでいたわけではなかった。だが自分が望もうが、望むまいが、時代は戦いへと走っていく。それだけは彼も十分理解はしていた……している、つもりでいる。

 

 

豪邸の内部、豪華なシャンデリアが吊り下がり、高価そうな絨毯がしかれ、大きな絵画などが並べられている。

その部屋の内装を一言で要約するなら成金である。確かに高価なことは高価だろうが趣味が良いとは言い難い。

本来は応接室として使われる部屋なのだろう。部屋の中心にはまた豪華なテーブルと椅子がある。

しかし、シンジはこの家に客を招いた事が一度も無いので、本来の役目を果たさずただの私室の一つとなっていた。

彼はそのテーブルについてテレビを眺めていた。

「ふう……」

シンジは溜息を吐いた。

……EVANGELIONmk2?知らないよこんな事、僕には関係無い。

テレビにはmk2が悪質なテロ組織に強奪されたとかでNERV総司令の葛城ミサトが緊急で記者会見を行っている様子が映し出されている。

……EVAなんて、そんな物は要らないんじゃないのか、もう使徒はいないのに。それは誰かを確実に不幸にするだけの兵器なのに。

シンジは再び溜息を吐いた。やはりニュースなど見るべきで無かった。見ても気分が憂鬱になるだけだ。

手元のコーヒーを啜る、口に苦味が広がる。砂糖を入れ忘れたのか、苦すぎる。

その苦さに少々だけ顔を歪ませる。コーヒーのそれだけではなく、彼の脳裏を過ぎった苦々しい思い出に対しても。

………ミサトさん。

シンジはかつての同居人の女性を思い出した。

今テレビに映っているのがその同居人だとはどうしても信じられなかった。

彼女はもっと明るくて朗らかな人の筈だった。少なくとも彼はそう認識していた。

しかし、今の彼女は醜悪で残酷だ。何が彼女を変えてしまったのかは分からないが、彼の知っている彼女はもう過去の思い出に過ぎない。それは嫌というほど思い知った。

過去の思い出、碌な響きじゃないな。とシンジは一人苦笑した。

過去の思い出といえば……いや、考えるのはよそう、また気分が悪くなる。シンジは強引に思索を打ち切り、再び視線をテレビに向けた。そしてリモコンを操作してチャンネルを変えた。

シンジはそのままダラダラと他愛の無い番組を見ていた。

 

 

 

「父さん、碇さんってどんな人だったの?」

狭苦しい座席、飛行機の客席だ。

エコノミークラスの硬いシートに身を任せつつ、鈴原トウジは息子の問いに答えた。

「アキト……またこの話かいな」

トウジは苦笑した。

「少なくとも、NERVの宣伝しているほどの『英雄』ではないわな。そんなに華々しい事は無かったんや……」

「けど、EVA初号機はEVAmk2が開発されるまでは最強だったっていうじゃんか。やっぱパイロットも格好よいんだろうなあ……」

そんな息子の呟きともとれる話を聞いて、トウジはさらに遠くを見るように嘲った。それは息子に対してではなく息子の憧れの対象に対してか、それとも何か別のものに対してなのか。

「……確かに強いロボットは格好良いわな。だがな、それに乗って戦う奴は大抵は格好悪いんや。特に今の連中は……」

その息子に対して、トウジもまた呟きで返した。

 

 

鈴原トウジ、アキト親子。

父のトウジと息子のアキトの歳が10程しか離れていないためか、二人は兄弟と思われる事が多い。しかし、血の繋がりは無い。

それはそうだろう。明らかに不自然なのだ、トウジの年齢は20代中盤でありアキトは14,5にしか見えない。それではトウジは小学生にして父親になったことになる。

「使徒戦争」時に疎開したトウジであったが、「使徒戦争」の終結後(正確にはNERVの二代目司令が就任した後からなのだが彼はこの事は知らない)には使徒の脅威に変わってNERVが脅威となったため疎開先の第二新東京といえど安全ではなくなってしまった。

彼の母親はすでに他界し、父親もSEELEによる戦略自衛隊の攻撃によって死亡していたため、彼は近くの親戚の元に身をやっていた。

しかし何時までも子供として親戚の世話になるわけにはいかない、彼はそう考えていた。彼は自分が成人すると、すぐに親戚の元を出て、第三新東京に向かった。特に何かあてがあったわけではない、ただ一度その光景を見たかっただけだった。

そこでトウジは当時4、5歳だったアキトと出会った。アキトは戦災孤児でその上に天涯孤独の身でもあった。彼の出身は分からないが、恐らくはNERVの職員の息子であったと推測されている。

どういう経緯はあったのかはここでは省くが、彼ら二人は親子となる事となった。トウジも寂しかったかもしれない。彼の親しい友人は皆バラバラな場所に疎開していって今は戦火によって所在不明であったのだから。

トウジは右足が義足である。銀色に輝くそれは、人によっては痛々しくも写るが時代が時代で怪我人なら腐るほどいた為あまり物珍しげに見られる事は無い。アキトもそれについては特に触れた事は無い。

今、彼ら二人は飛行機に乗ってある目的地に向かっている。

それはトウジの旧友の邸宅であるが、アキトにとっては憧れの英雄……伝説のサードチルドレンの豪邸なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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