EVA//ExtraImpact

episode05  red eyes

 

 

爆風の後の静寂。

朝焼けが眩しい。遠くに見える山の向こうから太陽が顔を出そうとしていた。

先程までは草木の茂っていたこの草原も、今では円球状に抉り取られ無残な姿を晒している。

その中心部に、二つの巨人のなれの果てがある。一つはもうピクリとも動かないが……

『…ちら零…機。目標の……は不可能、指示を』

単眼の巨人はいまだに健在であった。装甲はボロボロに剥がれ落ち、両手両足ともに半分以上が吹き飛ぶという大惨事であった。

しかし、奇跡的にもエントリープラグとコアの部分は無事で、もちろんパイロットも生きている。

少女の声。どこか無機質な、棒読みのような口調をしている。

年齢はまだ中学生といったところか、マサキと対して変わらない年齢だ。

彼女は白いプラグスーツに身を包んでいる。

だが、プラグスーツによって確実にシンクロ能力は上昇する筈なのに、機体とは裏腹に彼女には傷一つ無い。

EVAとのシンクロをしている限り、機体の損傷は必ずパイロットにフィードバックされる。

それは常識だった。

その常識を嘲笑うかのように、楽々と少女はエントリープラグのハッチを開け、外に出る。

もう片方の巨人の状態を確認する。中のパイロットを含め、もう問題は無い。冷徹なまでの眼差しで判断する。

髪が風に揺れる。

揃えないショートカット、そして何よりも特徴的な青い色。そしてその目は赤い光を湛えている。

誰もが見惚れる、凛としたその少女は、あまりにもファーストチルドレンに酷似していた。

 

 

 

『気にする事は無いわ』

ミクはマサキにそう言った。

一々気にしていては、耐えられないからと……

仲間が死ぬ、言葉にするとこれだけの事なのだ。その言葉に一体どれだけの意味があるのだろう?

周りの人は「彼の分も強く生きろ」と言った。「君が落ち込む姿なんて彼も見たくないだろう」とも。

五月蝿い。周囲の人間が鬱陶しい。

無駄に人の多い繁華街。そこから少し離れた場所にある公園のベンチ。マサキはそこに腰掛けていた。

太陽が彼を照らす。雲一つ無い青空、清々しい空気が彼の周囲の空間を覆っている。

遊んでいる子供の声がする。幸せそうな情景、心が和む物。

しかし、今のマサキにはそんなものを楽しむ余裕などある筈も無い。

彼の周りにだけ、陰鬱な雰囲気が漂う。

「……ふう」

くたびれた溜息を吐く。あまりにも年にそぐわない動作だったが、見た者はいなかった。

ケンイチの死。それを自分はどう受け止めているのだろう?

ケンイチの犠牲によって、自分は戦いを免れた。彼の相手はEVA、とても強力な敵だった。

だから、自分が戦ったらタダでは済まなかっただろう。寧ろ自分もやられた可能性もある。ベテランのミクもいたが、PTとEVAの差は大きい。

所詮、自分は無力なのだ。

自己嫌悪。ケンイチが犠牲になったことで自分が助かった。それを喜んでいる自分がいる。

何度も考えた事だが、考えるたびにそれは重くマサキの心に圧し掛かり、強い圧力で心を押しつぶそうとする。

暗いな……。空は明るいのに、何故かそう見える。

もう何も考えたくなかった。考えると考えるたびに悪い方向に意識が飛んでいってしまう……

マサキは立ち上がる。軽く背中を逸らし、伸びをする。

その時だった。彼の目に一人の少女が留まった。その少女はとても特徴的な容姿をしていた。

青い髪に赤い目、それはアルビノとか言ったか。

すたすたと鞄を持って歩くその少女は、どこか幻想的な美を醸し出していた。

例えて言うなら妖精といったところだろうか。病的なまでに白い素肌が、さらにそのイメージを助長させる。

マサキは純粋にその少女が綺麗だと思った。ミクもかなりの美人なのだが、彼女には無い何かがその少女には感じられた。

不覚にも、見惚れてしまっていた。彼の視線は少女を捉えて離さない。少女はマサキのそんな視線に気付いた風も無く、ただ通りすぎていく。

ヒトメボレ、とはまた違う……

もっと深い何かを、マサキは感じ取った。ケンイチの事を一瞬とはいえ忘れられるほどの衝撃だった。

 

 

 

港に停泊している大型船の一つ、本来ならタンカーである筈のその船の底に、二機の巨人がある。

そこはケイジと呼ばれている。『使徒戦争』時のEVAが、よく暴走する事でついた名前だ。ケイジ(監獄)とはよくいったものである。

全く色気の無い鉄の壁が四方を囲み、赤い色の液体が巨人を浸している。

顔の部分だけが出ているその様子は、見方によっては風呂にでも入っているかのようにも見えた。実際のところ、装甲の洗浄も兼ねているのであながち間違いではないのだが。

ミクには落ち込んでいる時間など無かった。

仲間の死を深く受け止めてはいけない、彼女は自分に言い聞かせる。そうでないと足が止まってしまうから……

「……マサキ君は?」

隣りの部下に尋ねる。

「どこかにフラフラと出かけていきましたが……拙いでしょうか?」

「まあいいわ。今は、そっとしておきましょう」

「……そうですね」

ミクの素っ気無い物言いに、マサキへの心遣いを感じた。

 

 

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