E−part

 

彼女は歩いていた。

一切の足音を立てず、淡々と。

しかし、何故?

誰かの顔が過ぎる。

誰だろう?

分からない。

分からなくても、いい事?

そうなのか?

そうじゃない?

それすらも、分からない。

しかし、彼女は、

歩いていた。命令に無い行動を取っていた。

行き先は、彼の元。

 

 

 

「……それは、本当か」

マコトは困惑した。

彼女が消えてしまったのだ。今の自分達にとって一番必要な『部品』である彼女が。

「何故すぐに報告しない!」

しかし、その気持ちもすぐに現実に向く。現状の確認を急ぐ。

「……それが、監視に着いていた保安部員が、死体で」

電話越しの部下の声は、震えていた。

彼が何を見たのかマコトは訊くつもりは無い。安易に想像がついてしまったからだ。

「いくらだ」

「……は?」

「何人、やられた?」

感情を出さないよう努力した。冷酷な司令補佐は、そうでならなくてはならない。

「12名ほど……」

「そうか。すぐに補充要員を手配しろ」

―――『私が死んでも、変わりはいるもの』

聞いた筈のない台詞がフラッシュバック。

「……はい」

部下はマコトのそんな対応に反感を持った様だった。しかし、マコトは気にしない。

そんな事を続けていけばどんどんNERV上層部は人望を失うだろう……だが、それでも構わなかった。

潰れるなら、潰れればいい。今の彼女を見ているよりは、まだマシだろう。

「どうせなら……レイちゃんも自由にしてやりたいけど」

独り言。

電話を置いたのは確認した。誰にも聞かれる心配は無い。

「けど、無理、か」

彼女を支える自分。

だから、裏切るわけにはいかない。裏切りたくない。自分だけは、最期まで。

葛藤。ジレンマ。

呼び名は様々。とてもシンプルで、それでいて複雑だった。

 

 

 

今日も太陽は燦燦と輝き、緑の木々を照らしだしている。

マサキはいつもの公園へ、機械的に向かっていた。

今日はあの子に会えるだろうか?

名前すら知らないけど、会いたい。今日こそ名前くらいは訊きたい。

言葉を交わしたい。

理由など無いと思う。

ヒトメボレとも違い、好奇心とも違う、その感情。

義務感?

違う。

必要としているのは自分だ。自分が何かを得るために、彼女を欲している。

北川ケンイチの事を忘れかかってる呆れた自分。冷酷な自分。

何の役に立たないお荷物な自分。子供な自分。

そんな格好悪いモノから脱出したい。

彼女なら、ソレをどこかにやってくれると思っている。根拠はゼロ。しかし、確信していた。

―――彼女はとても強い。

だから、弱い自分を吹き飛ばしてくれる。支離滅裂な理論だった。が、そう信じているのだ。

「……!?」

悲鳴が聞こえた。

思索に耽っていた心を戻す。顔を上げ、前を見る。

マサキのいる場所からは、何が起こっているのかは理解できない。

行くか?

しかし、危険なだけで、自分には何も出来ない。

やや迷う。そんな間に……。

こちらに向かってくる人影。それを追う足音。

「……君は!」

彼女はマサキに気付くと、少し微笑んだように見えた。錯覚かもしれないが。

「来て」

私と、一緒に。

そのニュアンスが強く込められた一言だった。

「……ああ」

彼女はマサキの手を取った。そして、そのまま雑踏を走り抜ける。

彼女の足はとても速かった。

 

 

 

「…………」

逃げきれた?

マサキは辺りを見まわす。それらしき人影は無い。

「ええと……」

彼女は一言も喋らない。ただ黙ってマサキを見詰めている。

視線を真っ向から受け止める形となったマサキは、何を言うべきかと考えを巡らせた。

訊きたい事、言いたい事は沢山ある。しかし彼は、

「のど、乾いてない?」

「……いいえ。必要無いわ」

彼女は無表情を保ち、それでいて視線は固定されたまま答えた。

マサキは居心地の悪さをはっきりと感じていた。何となくキョロキョロとしてしまう。

「彼らには、私を捕らえることは出来ない。近づく事さえ」

少女はマサキの動作を追っ手の確認のためと思ったようだった。

「そう、それならいいんだ……」

あははは、と乾いた笑い声。

正直、追っ手のことなど途中から考えてもいなかった。

「そ、それで」

訊くべき事は、まずそれだった。

「何?」

「名前、何ていうの?」

綾波レイ、と少女は答えた。

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