『8』
無駄なほどに時間は早く過ぎ去るものらしい。
それは最近になって初めて感じた。
蛇口を思いっきりひねった水道みたいに……
そのまま、全て流れ去ってしまうのではないか。
無駄な懸念を抱いた。
「赤松君」
下校時刻。起立、礼、といった具合に一日が終わる。
さっさと教室から出ていこうとする省吾を、晴香は目ざとく見つけた。
「一緒に帰ろ」
省吾はやや驚いたような表情をしたが、すぐに元に戻す。
「別にいいけど」
無愛想な態度だったが、晴香は気にした様子も無い。
ノートは鞄の中だ。どうせ今も折り目一つつかずに入っているのだろう。
「赤松君。ノートの事なんだけど、本当にどこで手に入れたの?」
下駄箱を過ぎて、校門を出る。
「拾った」
「どこで?」
「川の近くの道に落ちてた。ど真ん中に落ちていたのに誰も気にしなかったから、かなり怪しいと思ったけど」
あの時にほっとけば良かったか、言外にそう言っている。鞄の中のアヤは何を書きこんでいるのやら。
「そう? 私は嬉しいけど……。あまり、そうやって話せる人がいないし」
「そうなの? 友達は多い様に見えるけど」
いつも女子のグループに晴香は入っていると省吾は思っていた。その時は冷笑して「徒党を組んで楽しいのか」などと思っていたものだが。しかし、別に晴香に特に含むところはない。何の恨みがあるわけでもなく、特に好感を持っているわけでも無く。
「別に、特に仲が良いってわけじゃないわ」
「ふうん……」
「影では人の事を『オカルトオタク』とか呼んでいるくせに、目の前では作り笑いしている……」
『オカルトオタク』はまさに的を得た意見ではないかと思うが、省吾はそれに関しては言わずにおいた。
「けど、斎藤さんも僕の前で他の子の陰口を言っているから、同じじゃないの?」
思わず口に出てしまった。
思わず言ってみた。
驚いた、自分が他人に説教をするとは。明日は台風かなあ。他人事の様に考える。
晴香は目を見開いて省吾を見た。
「確かに……そうね」
省吾は何も言わない。言うべき言葉が見つからなかった。
沈黙が続く。こうやって、言葉を探すのも久しぶりだ。
マイペースに自分の世界に没頭する。誰かと会話をするのは面倒だったが……
悪くは無い、かな。
そっけない会話だったが、そんなものにも新鮮味を感じた。
『何でアナタってこんなにウジウジしてるわけ?』
あんまりな質問だ。別に自分の性格が暗いという事に関してはいまさら否定などしないが、このような無神経な発言が内向的な人間を深く傷つけるのだろうなあ、と、他人事のように省吾は思った。
学習机のど真ん中の指定席に陣取ったアヤ。席についてぼうっとする省吾。この光景もいつもの習慣と化している。
「別に」
アヤのこんな性格にはいい加減慣れたが、やはり改善してくれるにこしたことはない。
『何よ。文句でもあるの?』
溜息を吐いた省吾が気に食わなかったらしく、アヤは不満げに。文字の大きさや丁寧さで、彼女の感情が推測できた。
「いやアリマセン。で、なんの話だっけ?」
『根暗についてよ』
「『いろいろ』あった、ってことで」
『その「いろいろ」の部分を詳しく』
「野次馬精神は嫌われるよ」
『いいから』
いつもの彼女の字体とは違い、有無を言わさぬ迫力があった。
「あんまり面白い話じゃないよ?」
省吾はやや不機嫌そうに言う。誰かに聞いて欲しいという感情と、言いたくないという感情が交差する。
「僕には姉がいたんだ」
結局、喋ることにしたらしい。省吾はノートのページを見詰めて、淡々と語った。
「十年前の事だった。
この頃は父さんも母さんも姉さんも家にいた。この家は狭かった」
感情を交えずに。
「今思うと、きっと、些細な事だったんだと思う。小さなイレギュラーが重なって、起こった事故だったんだと思う。
父さんはこの日も会社に行こうと、朝御飯を食べ、背広を着て、鞄を持った。いつも通りの生活が始まる筈だった」
『……それで』
「その時、僕は小学生になるかどうかという歳だった。姉さんが一つ上で、年齢的には僕と大して変わらない。
父さんは、ごく普通のサラリーマンで、母さんはただの専業主婦だった」
ふう、と肩を回す。無意識のうちに語る事を忌避していた。
『で? それでどうしたの?』
アヤは執拗なほどに追求する。何故かは分からないが、随分と知りたがっているようだ。
「姉さんが死んだんだよ。事故だったそうだ。それも、父さんの車が間違って轢いてしまったらしい」
結論から言う。もったいぶっても仕方が無い。それどころか不快な話題は早く消費してしまいたいというのが本音だった。
『……そう』
言葉少なく、アヤはノートに書きこむ。「……」を使う回数が圧倒的に増えている。
何か彼女にも考えるところがあるのだろうか? それきり黙ったままだ。
「それで、まあ、あとは何というか、母さんは姉さんが死んだのが父さんのせいだって責めて、父さんもどうしていいのか分からなくなって」
それで別れた、と省吾は言外に語っていた。
「ねえ、面白い話じゃなかっただろう」
『……そういえば、何でアナタはこの家で一人暮しをしているの? 普通は親について行くものじゃないの?』
「ああ、中学を卒業するまでは父さんの元にいたよ。けど、結局ギスギスしたのは直らなくて、ね。
酔った拍子に言われたよ。姉さんが死んだのは、あの時僕が姉さんに注意しなかったからだって。お前のせいだって」
『ふうん……』
詳しい事情は聞かなかった。聞くのが躊躇われた。
「ヒトなんて、本当に下らないじゃないか?」
省吾は背伸びをする。
「絆は大切だとか言っていても、簡単に自分からぶち壊して、それで他人に責任転嫁して、さらに壊してさ」
家族という一番大切な絆も容易く崩壊した。そんな不確かでいい加減なもの、信じれるか?
声にも、多少感情が篭る。
思い出そうとしているのか、忘れようと努力しているのか。
「まあ、そういうわけだよ。『いろいろ』っても、10分もすれば話し終えるようなものだけどね」
省吾は口をつぐむ。
話した事を後悔はしていないと思う。どうせ、そのまま目を背けてよい事じゃない。それは分かっているつもりだ。
しかし、その記憶は痛かった。
アヤもそんな省吾の心情を察してくれたのか、何も書かなかった。ノートの空白が、妙に目立った。
『9』
もう夏も終わろうとしている。八月の、20の桁に乗っかった今のこの台風は、夏のラストを締めくくるイベントだろうか。
この夏……何かあったかな? と聞かれると答えに窮する。あったとは思うが、何があったのか説明できない。
ノートを拾った。一言でいうとそれだけのことだった。あまりにも寒い。
しかし、少なくとも、「いろいろ」あったと思う。今度は、良い意味で。
「雨だな……」
家の中にいても、ザーザーと雨音が聞こえてくる。屋根を水が打つ、太鼓のような反響音が、静かな部屋に響く。
『台風、とかテレビでは言ってたわよ』
省吾はノートを見る。アヤの云っている事は知っていたが、うん、と頷いた。
そういえば、去年もこの位の時期に台風が来たな。ふと思い出す。
その時は随分と大変みたいだった。自分は「関係無い」で済ませたが、通学路の川が少し増水したらしい。
今年も、そうなると増水するのかな? そうとは限らないが、そうなるかもしれないだろう。
まあ、どうでもいいか……。
幸い、自分は外に出たがる性分ではない。家ごと吹っ飛ばされるような事態にならなければ問題は無い。それでも、喧しい雨音には勘弁して欲しいものだが。
ぼうっとしているその時だった。一階で電話が鳴った。
何だろう。省吾はもそもそと億劫そうに立ち上がり、電話に向かう。
階段を降り、電話の受話器を取ると、すぐに電話の相手は大声を出してまくしたてた。省吾にそんな態度を取る人間は数少ない。晴香だろう。
「赤松君、知ってる!?」
何をだ。
省吾は、晴香の剣幕に圧倒されながらも、内心だけで反発する。
「あのノートが見つかったのよ、それも5冊も! みんなあの川の近くだったんだって!」
何となく、話しが見えてきた気がする。
「だから、あともう一冊くらいは見つかるかもしれないでしょ? 探しに行きましょ」
「……今、から?」
「当然じゃない。他にも探しに来る人がいるから、早くしないと!」
雨は一向に止む気配を見せない。当然だろう、台風が真上に居座っているのだから。
初めて、晴香がうざったいと思った。彼女の友人もそんな思いをして、彼女の陰口を言っていたのだろうか。
しかしながら、省吾も強く断ることは出来なかった。晴香は、自分の数少ないどころか、ただ一人の「友人」なのだ。少なくとも、学校生活において接する事のある唯一の人間だった。向こうは自分をアヤのオマケ程度にしか思っていないにしても、それでも友達だとは思う。
だが、台風の中、あるかどうかも定かではない一冊のノートを探しに行くというのはどうだろうか。
「……外、大雨だよ」
そんな事は晴香も承知しているだろう。
「そんな事分かってるわよ。けど、今じゃなきゃ!」
……駄目だ。
「分かった、行こう」
溜息をついて了解した。
軽い気持ちでの決断だったが、それには以外と大きな意味があった。今は、そんな事は知らないけど。
予想を寸分たりとも裏切らない、見事な大雨だった。
省吾は早々に家の雨戸を閉めたため分からなかったが、雨はコンクリートに突き刺さるかのような勢いで降り注いでいる
その中を行くのか……。
今更ながらウンザリした。それでも、一度決めた事だ、と意気込んでレインコートに袖を通す。この場合、傘などでは何の意味も成さない。
晴香とは「目撃情報」のあった通学路の川沿いの道で待ち合わせになっている。彼女ならこの状況も十分に楽しめるだろうが……
ノートを無造作にスーパーのビニール袋に突っ込み、がっしりと手に持った。風も物凄いため、うっかりしていると飛ばされてしまう。
……さあ、覚悟を決めて行こう。
しばらく玄関で立ちすくんでいたが、何とか一歩を踏み出した。もはやレインコートすら無意味に近かった。
何故か、この台風の割には人が多い。普通はこんな日に好んで外出する馬鹿など自分達の他にもいるのだろうか。まさか全員がノート探しに来たというわけではあるまいに。
それに、サイレンの音まで聞こえてくる。何かあったのだろうか。この大雨だから、事故の一つくらいは起こるものなのかもしれないが……。
どうも気になるな。特に、自分と行き先が同じという事が。まあ、実際は大した事じゃないのだろうが。
サイレンの音が遠ざかる。消防車と思われる車(視界があまりはっきりしないので分からなかった)が通りすぎていく。
「何かあったのかな」
ビニール袋からノートを取りだし、ページをめくる。濡れたり折れたいしないこのノートの特性がありがたかった。
『さあ……。川の氾濫を押さえに行くんじゃない? この雨に風だし』
ノートの文字は、滲みすらしない。
「そうだな……。まあ、とっとと行こうか」
省吾は約束の場所に向かった。
何となく嫌な予感がした。嫌な予感に限ってよく当たる。そんな言葉が頭をかすめた。
「うわあ……」
川は大氾濫を起こしていた。去年の事もあって、それは予想できた事だが、実際に見ると圧巻だ。
省吾は着くやいなや晴香の姿を探した。当然、氾濫を理由に帰る為だ。しかし、人が多くて見つからなかった。
全く……。と思いながらも探し続ける。携帯電話はこの雨なので家に置いてある。どのみち、持って来たとしても使い物にならなかっただろうが。
消防車はやはりこの川が目的地だったらしい。銀色の服を着た男達が車の中から出てきている。氾濫を抑えるのが目的らしく、土嚢を積み上げている。
こんな有様では、ノートもへったくれも無いだろう。晴香が目の前にいたら言ってやりたかったが、不幸にもその彼女がいないのだ。何となくそのまま帰るのも気が引ける。
省吾は辺りを見回す。何かザワザワしだしたような……。
周りの雰囲気が変わったような気がした。五月蝿いのは変わりないが、掛け声などとは違う、悲鳴のような声がしている。川を見て、目を見開いている人もいる。何かあったのだろうか。
人垣を掻き分けて、騒ぎの中心まで進む。
「大変だ、女の子が川に落ちた! すぐに応援を!」
ここにいるのは、消防員や町内会の有志の連中だけだ。女の子、という言葉が当てはまる人がいない。しかし、自分には「女の子」に心当たりがある。
「まさか……」
ノートを開く。
『……多分、当たりっぽいわね』
波打つ水面を凝視すると、斎藤晴香の顔が見えた。
「……何でこんな事に!」
省吾は呆然としながら叫ぶという奇妙な芸当をやってのけた。晴香はこの大雨の中、ノートを探していて、何かの拍子で川に落ちてしまったのだろう。
運良く今は障害物に引っ掛かっているが、この流れでは楽観は出来ない。一度流れてしまったら。下流まで一気に行ってしまうだろう。当然、死体となって。
マジかよ……よりによって……。
夢でも幻でもない、紛れも無い現実なのは分かっていたが、認めたくは無かった。
「どうすれば……」
いいのだろう。
この答えはごく身近にあった。自分自身、とうに気付いている事だった。
『「願い」を使えば』
分かっている。
『あの子を助ける事は簡単よ』
しかし、自分に出来るのだろうか。
『普通に助けようとしても、この状況では助かる見こみは薄いわ』
他人のために、心の底から願うということが。
『いえ、却って犠牲者が増える可能性すらあるわ』
疎ましいと思っただろう? 彼女の事が鬱陶しいと、一瞬だけでも思っただろう?
「……出来る、のかな」
『出来るでしょ。アナタが心の底から願っていれば』
それが問題だった。結局、他人なんて関係無い。染み付いたスタンス。
なあなあで付き合えるようにはなったが、本当に大切だと思っている?
両親の姿がフラッシュバックする。崩壊した過程をあますことなく見た。
信じれるか? 信じていいのか?
どんなに想っても、全てのヒトは他人でしかない。それは分かりきっていることだっただろうに。馬鹿みたいに、誰かに縋って生きるのはくだらない。父と決別した時、それは分かっただろう? だから。
「出来、ない」
『何?』
「僕には、心の底から他人を信用するなんてことは」
絶対に出来ない。強迫観念に似た衝動が、省吾を止めていた。
『……やっぱり、両親のこと?』
「…………」
無言で頷く。
『……あの時は、仕方なかったのよ。みんな、弱かったから、誰かのせいにしていなければ、やっていけなかったのよ』
「何で、こんな事が分かるのさ」
他人のくせに。そのニュアンスが込められていた。
『分かるわよ……。だって、アナタはアタシの弟だから』
『10』
「……え?」
こんな状況だというのに、間抜けな声を上げる。
アヤは少しの時間だけ沈黙していたが、すぐに話し出した。
『アタシの言った事は全部ウソだもの』
それなりに衝撃の告白だった。こんな状況で聞かされなかったら、もっと考えこんでいただろう。
『何でこんな事になったのかは分からないけど……何時の間にかあの道に、この姿で転がっていたわ』
「そんな……馬鹿な」
それでも、悪魔よりはまだ現実味がある気がするが、そういう問題でもない。
『けど、願いを叶えられる事だけは本当……自分で、出来るって分かるの』
一拍置いて。
『ホントに……ラッキーだったのか、そうでないのか。アタシは、死んでから何が起こったのか分からなくて、ただお父さんが凄い剣幕でアタシの体を持ち上げて絶叫して』
「………」
『それで、そうしていたら、だんだん意識が遠のいていって、気がついたらノートになっていたわ。そして省吾、アナタに拾われた』
タチの悪い冗談、にしては妙にリアルだ。それにこんな時に冗談を言うとは考えにくい。
だとしたら、それは。
「本当なのか……」
『ウソじゃないわ』
姉さんの名前、確か……
「赤松綾子……!」
『ええ、アタシの名前。懐かしいわね……』
何を考えていいのか。ただ呆然としていた。何なんだよ……一体!
『で、どうするのよ。やるのか、やらないのか!もう時間はあまり無いわよ!』
そうだ、決断、しなければいけない。
雨が体を叩く。風がもはや隙間だらけで飾り同然のレインコートを引っ張る。
願えば良い。願わないのは悪い。
そうだ……そんな事、分かっている。
忘れれば良い。悲しい事も、何も、今だけは……
「忘れる……」
アヤは、猛烈なスピードで文字を書き込む。書いてはページをめくり、という動作を一人で繰り返し、ノートのページはどんどん埋まっていった。書かれている文字は、省吾には読めない。日本語でない事は確かだ。もしかしたら初めから意味など無いのかもしれないが。
文字の書かれたページが破ける。どこにそんな量のページがあるのだろうか、ノートからは何百枚ものページが放たれて、生物の様に飛び立っていく。ページは紙のドームを作り上げ、省吾をすっぽりと覆い隠し、視界を奪った。
時間が、止まったような気がした。
いや、もしかしたら本当に止まっているのかもしれない。
視界が真っ黒に染まり、周りの音も聞こえなくなった。
ドクン……ドクン……
そんな中、自分の心臓の音だけが響く。何も考えられない。誰も何も無い世界。誰も、道を示さない。自分が決めなければならない。
気付いた。自分自身で決断した事など、今まで一度も無かった。
自分を拒絶されたから、自分も拒絶しようと決めた。
自分の価値を認めてもらえなかったから、自分も認めるのをやめた。
それだけの事……。自分がやりたくてやったことなんて一つも無かった。
だから……決められるのか? いや、決めなければいけない……!
変わるべき時は、今だ。
紙のドームが破け、視界が自由になる。
『よくやったわ……』
多分、幻聴だったのだろうが、赤松綾子の声が聞こえた気がした。
『11』
「結局、誰も分かっていないみたいなんだ」
もう、あれから一週間が過ぎた。
気が付いた時にはノートは無くなった。何でだか本当の理由は分からない。しかし、省吾には何となく分かる気がした。
「何を?」
ちょっと前には大変な事になっていた川は、いつもの姿を取り戻している。台風があったことなど大昔の話で、もう過ぎた事だとその光景は雄弁に語っていた。
省吾は、晴香と川沿いの道を歩いている。
学校が終わって、今日も家に帰る。だんだん監獄らしくなくなってきた学校は、別に苦痛でも無くなってきていた。
どんな心境の変化なのやら……。またも他人事みたいに考える。
「ノートのこと」
「……きっと、贈り物だったのよ」
「誰のさ」
「神様に決まっているじゃない」
省吾は思わず笑った。慌てて笑みを引っ込めるが、その時にはもう遅く。
「何よ……文句ある?」
肩を竦める。
「……神様か。そんなもの、いたとしても役立たずの能無しだと思っていたけど……」
それがあなたのプレゼントだとしたら、少しは見なおしてやるよ。
「何か言った?」
「いや……別に何も」
何も変わらない……。省吾がどうなろうと、世界は真っ直ぐ進んでいく。
しかし、省吾の世界は、確実に変わっていく。あの日と同じ川が、いつもより輝いて見えた。
赤松隆司は、駅のホームを出た。
外は暑い。会社ではクーラーが効いているのだが、当然ながら外にクーラーなどがある筈も無い。
隆司には一人の息子と、もう亡くなった娘がいた。娘の死亡が切っ掛けで、妻とも険悪になり、結果として離婚。
残された息子には、苛立った自分が一方的に訳のわからない事を喚いて、見放された。
自分に残された物は何も無い。それでいいのだろう。事故とはいえ、愛娘を殺してしまった自分が……
幸せでいようなど、ムシがよすぎる。
……さて、明日も仕事だ。とっとと帰って寝よう。
背伸びをして、歩き出す。自分と同じく、会社帰りのサラリーマンが数人、前を歩いている。
………ん?
前のサラリーマンは気付かないようだが、道のど真ん中に黒いモノが落ちている。
それはノートのようだった。こんな人通りが多いところでは、踏まれたり色々と汚れる事もあるだろうに、それは全くの無傷で新品同様の輝きを持っている。それに、誰一人としてそれに気づかないのはおかしい。夜とはいえ、ここは繁華街だ。明かりはかなり多い。
不思議に思い、隆司はそれを拾った。
<完>
後書き、というか言い訳、もしくはただの戯言
どうも、kazamaです。
この「日付の無い日記」は何気に今までで頑張って書いた作品です。
自分で読み返してみると、かなり痛々しい部分もあり、かなりアレな気分です(自分で歌った歌をテープで聞くような感じ(笑))
ここで制作の苦労とか話してもただウザいだけだと思いますので、取り敢えずパク……もとい参考にした部分を書いておきます。
タイトル「日付の無い日記」……ロードオブメジャー『ROAD OF MAJOR』より「日付の無い日記」。そのままですな。
主人公「赤松省吾」……バトルロワイヤルの赤松と175RのボーカルのSHOGO。
ヒロイン?「斎藤晴香」……「斎藤」は適当に。「晴香」はバトルロワイヤルの中川はるか(だったと思う、多分)より
ヒロイン?「アヤ」……新世紀エヴァンゲリオンより「綾波レイ」の「綾」のみ。本名の綾子は適当に。
……と、まあそんなところです。それにしても人の名前って決めるの難しいですね。「適当」って言っても以外と思いつかない(泣
最後になりますが、ここまで読んで下さった皆様に心よりの感謝を。いや、マジで。
できたら感想でも送ってやって下さい。執念深く待ってます(笑
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