Title of mine

前編

 

 

『序』

 

 僕は、学校に行くのが楽しいという人間の気が知れない。

 神経をすり減らすだけ減らして、その残りカスで勉強して、馬鹿話に精を出して。

 そんな僕の考えをヒトは、僻み、と呼ぶ。現実に対処できない落ちこぼれの戯言だと。

 だから、あまり言わないようにしてきた。黙っていれば、何も無いから。

 

 朝だ。学校に行こう。昼だ。帰ろう。夜だ。寝よう。

 そういう見事な生活を送ってきた。何でだかは忘れた。始めからそういう風に僕は作られていたのかもしれない。

 物心つくころから、僕は人間がとても苦手だった。「だった」過去形は間違いだ。現在進行形で苦手である。

 幼稚園児の時、保母さんに最後まで懐かなかったと聞いているし、小学校でも何かを喋る事はあまりなかった。なんでだろう? 疑問には思うが、答えは無い。取り敢えず、誰かが話し掛けてくる度に、条件反射の様に身を強張らせていた僕は、とても滑稽だったということだろう。

 それでも、学校は毎日通っている。所謂「ひきこもり」なる人種と僕は別物だ。

 しかし、時々「ひきこもり」なる人について考えてみる事がある。彼らは、何故ひきこもるのだろう? 答えは簡単に想像が着く。僕も、誰にも会わないでいいと言われたら間違いなくそうしている。

 けれども、ひきこもった事による周りの反応が怖かった。両親に心配をかける事は、正直言うとあまり気にならない。ただ、心配をかける事で、無意味に干渉されるのが耐えられないだけだ。適当に学校に通って「普通の中学生」的な事をしてさえいれば、何も干渉される事は無いのだ。

 勿論、それは苦痛である。人の沢山いる所は怖かった。けれども、僕は理解していた。これだけ人がいても、無用の干渉をしてくる人間は滅多にいない。時々、「私はアナタの味方です」なんて顔をした先生が、「引っ込み思案」というレッテルを貼られている僕に話し掛けてくる事があるが、その程度だ。

 いや、この言い方ではその先生を誤解してしまうかもしれない。その先生は良い人だと思う。教師の鑑だと思う。ただ単に、僕に話しかけてくるのが気に入らないだけだから。

 そうやって、もう何年も過ごしてきた。周りの人間が、意思を持たないオブジェに見えるような気も……

 最近、しないでもない。

 

 『1』

 

 ……ああ、ええと……ここは何処だったっけ?

 意識を集中させると、ぼやけていた背景が鮮明に映る。僕は椅子に座って、ペンを持っていた。そういえば授業中だった。

 時計を見ると、チャイムが鳴るまではあと20分くらいある。仕方ないので、無意識のうちに書き溜めたノートに、さらに黒板の文字を書き写す。意味はよく分からない。僕の理解力が乏しいのか、それとも理解する意欲に欠けているのかも知れないが。

 いい加減に終わって欲しい。隣の席の奴は、こっそりと漫画を読んでいる。恐らく本人は隠そうと思っているのだろうが、教師の位置からは丸見えの筈だ。それでも、注意しないのは、この教師が生徒へ無関心なのだろうか。

 漫画を読んでいる奴を尻目に、僕はノートを写す。授業が終わるまで、そうして暇潰しをしているつもりだった。

 窓の外の景色は、もう夏の訪れを感じさせるものに変わっている。桜はもうとっくの昔に散ってしまい、緑色の木の葉しかない。地面には、まだ花弁がすこしだけ残っている。風でピンク色のそれが舞うと、少し綺麗だ。

 空は快晴。心地よい風が吹き、絶好の行楽日和だそうだ。しかし、僕は外に出るよりも、室内で一人でいるほうが好きなのであまり関係無い。

 そろそろ、制服も夏服に替えるべきだろうか、と思う。長袖のワイシャツにブレザーでは、少々暑い。けど、ブレザーの内ポケットは便利なんだけど……

 ……つらつらと、他愛のない事ばかり考えていた。それでも、手は止まっていないのだから大したものである。

 残り二分。やっと今日も終わる。

 今のうちに帰り支度をしておこうと思った。

 

 僕は、この学校で、最初に下校する人間だと思う。特にする事が無いし、学校にいるのは僕にとって歓迎すべき事では無いからだ。

 学校から家に帰るまでは、少し長い坂を下る。下校時に下るのだから、登校時には上る訳で、少し疲れる。

 今日のホームルームでは、来月の修学旅行について連絡があった。はっきり言うと行きたくない。行っても楽しくないだろうという確信があるのだ。

 家に着いた。考えるのは、後にしよう。

 

 

また、朝が来た。もう何億回も無駄に回り続けている太陽がまた一周。喧しく鳴る目覚まし時計を止め、制服に着替える。

 木漏れ日がカーテンから差し、朝の到来を無理矢理、僕に認識させようとしている。だから、カーテンは開けない。こんな天気の良い日だと、僕はたまらなく憂鬱になるからだ。

 時間はあまりない。行きたくなくても、行かなければならない場合もあるわけで、

 僕は、部屋のドアを開けざるを得ない。

「行ってきます」

 台所の母親に、一方的に告げ、早足で家を出る。ギリギリまで寝ておけば、遅刻を理由に朝食を摂らないで済む。家族と顔をあわせずに済む。だからいつもそうしている。最近ではそれが当たり前になっているから、何の問題も無い。

 今日も何時もと変わらない。そんな日が続いてくれるだろう。そう思った。

 

 

『2』

 

 

 本当に、もう夏だ。アスファルトは少しだけ熱を持ちはじめ、太陽は馬鹿みたいに輝いている。スニーカー越しだからアスファルトからは熱は伝わってこないものの、太陽の熱は僕に直撃している。

 僕の鞄は黒かったため、余計に熱を吸い取ってしまう。何処かのデパートの安売り商品のようなダサいデザインの鞄を、今ばかりは恨めしく思った。

 見た顔の生徒が、後ろから僕を追い越した。確か、同じクラスの生徒だっただろうか。よく覚えていないが、見覚えがあるという事は、そうかもしれなかった。彼らは僕の事を気にとめていなかった。

 

 校門に着いた。チャイムが鳴っている。多分、予鈴だろう。

 あと五分はあるのだからと、特に急ぐ事もせず、ゆったりと靴を履き替える。

 今日も始まる。ふう、と溜息を吐いて、僕は校舎に入った。教室は下駄箱のすぐ隣にあった。ここからでも、中のざわめきが聞こえた。鬱陶しかった。

 

 

「今日は、修学旅行のグループを決めようと思う」

 ロングホームルームの時間。

 担任教師は、やる気無さそうな声でそう言った。僕は、どうでもいいや、という表情を作って辺りを見回してみる。

 結構、面白かった。アイコンタクト。いかに仲良しグループが一つの班になるか、即時に計算を始めている。視線が、蜘蛛の巣の如く繋がる。

 どうせ、余ったところに入るんだし。僕はそう思い、ただ席でじっとしていた。現にそうなり、僕は所謂「余り者グループ」の一員として処理された。

 このグループのメンバーは、その不名誉なグループ名からも察せられる通り、冴えない顔の奴ばかりだった。自分もそうだろうと思っているから、特に思うところは無いけれど。

「よろしく……」

 リーダーを気取りたがってる奴がそう言ったが、誰も返事をしなかった。少し可哀相だったから、僕は控えめに挨拶してやろうかとも思ったが、やっぱりやめた。

 グループは男女混合だ。このグループの場合、男子が三名、女子が二名の合計五名から成っていた。僕以外の四人は、自由行動をどうするかとかを話している。僕は一応は会話に参加しているフリをしておいた。

 

 

 帰り道だった。僕はもう下校のチャイムは鳴った後で、悠々と下り坂を歩いていた。

 朝よりも気温が上がっている。焼けるような暑さ、というよりも蒸し焼きにされるようなじめじめした熱気が段々発生しているのを感じる。

 前には誰もいない。今日も僕がトップだ。

 坂にさしかかると、向かい風が吹いた。心地よい風。少し嬉しい。

 隅の歩道を歩く。ガードレールが所々壊れていて、その役目を果たしていない。誰が壊したのか、それとも勝手に壊れたのかは知らないが、そのまま平気でほったらかしに出来るのだ。そして、何かあってから、馬鹿の一つ覚えみたいに文句を言う。何もやってないのは、みんな同じなのに。

 まあ、そんな事は別にどうでもいい。子供が誤って車道に飛び出そうと、それを避けようとして車が事故を起こそうと僕には全く関係無い。関係無いから、何も言わない。

 大型のトラックが、僕の真横を通りすぎた。1メートルの差だった。

 いつも思うのだが、ヒトなんて簡単に死ねると思う。普段歩いている道からちょっとずれて車道に出れば、簡単にバラバラ死体になれる。ごく偶にそうしてみようか、と考える事もある。果たして周りの人間はどんな反応をするのかな。悲しむ? 怒る? それとも、何も思わない? それは、とても気になった。けど、バラバラ死体になった僕は周りの反応を見ることが出来ない。だからこの計画は実行はされないだろう。

 坂を下りきる頃に、後ろに人影を感じた。多分、坂の途中にあった脇道からこの道に来たのだろう。

 地面を見ると、人型に伸びる影が見えた。以外と、かなり近くにまで寄って来ている。

 何なんだ? おかしい奴だったら困る。クラスメートが話しかけてくるとは思わないから、僕は少し歩調を速めた。

 そいつは少し驚いた風だったが、変わらないペースで歩いている。そのままサヨナラか、そう僕が思ったとき、そいつは言った。

「大石くん……貴方、上手くヒトと付き合えないでしょ?」

 何もかもが唐突で、意味は完全なまでに分からなかった。

 

 降り返ってみる。そいつは、声の調子から判断できた通り女の子だった。学校の制服を着ていて、僕の名前を知っていたのだから、同級生なのだろうか。

 どう返事をするべきか。いきなり「ヒト付き合いが下手だろ」なんて言われると思ったことは無いから、全く考えていなかった。当然だろうけど。

「だからさあ……今なら大石くんのこの性格を私が直してあげるって言ってるのよ」

 アタマのおかしいヒトの可能性も出てきた。どうしよう。

「……全然、話が見えてこない」

「さっきから言っているのに」

 そいつは、困ったなあ、とでも言うように顔に手を当てる大袈裟なポーズを取った。何となくムカついた。

「早い話、友達のいないアナタに社交性を持つ練習をさせるという事よ」

 別に否定はしないけど……ここまでキッパリと言われたのは初めてだ。ある意味、凄い奴かもしれない。

「……あんたは何なんだ。何でいきなり訳の分からない事を言うのさ」

「私は『ガイア神教』の幹部役員だから、困ってるヒトを見過ごせないの」

 話し掛けられた時に、猛ダッシュで逃げるべきだった。もしくは、今日だけ別のルートを通って帰るとか。

 しかし、もう遅い様だった。

「宗教の勧誘は、ちょっと……」

「いえ、そんなんじゃないわ。ただ私の修行の一環だから」

「いや、だからって……」

 いい加減に気付いてくれ。失せろ、と言外に言っているつもりなんだけど。

 しかし、僕の願いはそいつには聞き入れてもらえなかった。

「OKよね?」

 ある種の迫力を持って、そいつは一歩僕に近づいた。

「………………」

 期待と興奮を瞳に湛え、そいつは僕の顔を見ている。

 断るには、僕の性格はとても不向きだった。

 

 

『3』

 

 

 彼女は、本間ミチルと名乗った。制服から推測できた通り、僕の同級生で、隣のクラスにいた。

 僕はと本間は、並んで歩いた。坂を降りきると、本間は「また明日」と言って分かれた。彼女の家は僕の家と方向が別だった。

 「さよなら」を言ってから、思い出したように本間は、

「明日、学校が終わったらこの坂の上で待ってて」と言った。

 僕は頷く。本間は満足げに僕を見て、少し微笑む。そして、くるりと向き直し、去っていった。僕は彼女を暫くぼんやりと見詰めた。

 

 一日経った。また朝起きて、学校に行って、授業を受けた。無駄な一日をまた一周ほど繰り返し、放課後になる。

 チャイムが鳴る。他のクラスメート達はまだ教室に残って各々の友達と談笑していた。それを尻目に僕は教室を出て、下駄箱に直行する。

 下駄箱を一見すると、僕以外の誰もまだ学校の外に出てはいないようだ。隣のクラスの本間はどうだろうと思ったが、確認するのが面倒くさかった。

 漫画とかドラマだったら、ここで僕の外靴には画鋲でも入っているのだろうが、そんな事は無い。みんな良い人だ。

 そういえば、僕は一度もイジメの標的になった事は無い。イジメられる要素は腐るほど兼ね備えているだろうと信じているが、何故か一度も無いのだ。小学校の頃から、所謂「イジメっ子」は存在していたし、イジメられている奴もいた。イジメの現場を見た事もある。その時イジメられていた奴は、学校という社会において、僕よりも「階級」が高かったと思うのだけれども。別にイジメられたい訳ではなかったから、僕にとっては幸運だったが、それは今考えても不思議だった。

 

 ちょっと学校から離れた所にある、本間に会った坂に着いた。待ち合わせに指定された場所に、彼女はもう居た。僕より早く学校を出たのだろうか。一番だと思ってたから、ちょっとショックだった。

「あ、やっと来たのね」

 しれっと彼女は言う。まるで僕が遅刻したかのような言い草だ。

「……何で僕よりも早い訳?」

 ホームルームが終わったら、僕はここに直行したのだ。僕より早いなんて有り得ない。

「ああ、今日は学校をサボったから」

「ふうん……」

 その割には、制服を着ている。親には学校に行くと言っているのだろうか。

「詮索しないのね」

「別に、興味無いから……」

 で、何の為に呼び出したの? そう僕は続けた。 

 本間は苦笑して、

「アナタの社会復帰の訓練に決まってるじゃない」

「社会復帰って……僕は普通に学校に通ってるけど」

「一言も喋らないでいて普通って言えるわけ?」

 また容赦無い。

「だから、私がアナタを助けてあげようとしてるのよ」

 だから感謝しろ、というニュアンスが込められていた。

 本間は僕のムッとした様子に気付いた風も無く、「じゃあ、行きましょうか」と僕を急かす。

 ……行くって何処に? 僕の質問は黙殺された。変な宗教団体に連れて行かれなければいいんだけど。

 

 

 何故だか知らないが、今、僕は電車に乗っている。駅にて僕は初めて目的地を教えられた。

 二つ隣の駅の繁華街。あまり好きな場所ではないが、ここまで来たのだから行かないわけにはいかなかった。

 ガタンゴトンと電車は不規則に揺れている。窓の外は、今日も快晴。鉄橋を渡る時、川が日光で輝いて綺麗だった。

 時間的な事もあって、人もまばらで、乗車率は80%にも満たないだろう。シートもがら空きで、殆どどこにでも座れた。

 僕は、隣に座っている本間を見た。今まで特に会話も無い。ただ、二人してぼうっと窓の外の景色を眺めていただけだ。

 どうも彼女の性格を把握できない。明るいのか、それとも寡黙なのだろうか。どちらの側面も持ち合わせているように感じられる。

 僕の視線に気付いたのか、本間は「何?」と言った。僕は、何でも無い、と答えた。

 

 田舎の街だが、一応は繁華街なので、駅は結構混んでいた。

 僕と本間は人波に流されていき、改札口を通る。

「で、何処に行くの?」

 人波が一段落ついて、立ち止まって喋れる程度の場所まで来た。

「さあ……何処にしようかしら」

「……決まってないの?」

「ええ。適当に繁華街を歩く、という程度しか決めてはなかったわ」

 人の多い場所を歩くのが一番の治療法だ、と彼女は言った。

「アナタ、何処か行きたい場所ない?」

 あるわけないだろうが。そもそもここに来るつもりも無かったのに。

「特に無いけど」

 そう言うと、本間は困ったような顔で僕を見た。僕はそれを見なかった事にして、

「……普段、あまりこんな所に行かないし」

「私もそう」

 お互い、顔を見合わせたままぼうっと突っ立っていた。周りの人は誰一人として一箇所に留まっていない。その中で、僕達は浮いていたと思う。

 ふと、壁の広告が目に入った。今日公開の映画の宣伝ポスターだった。

「……じゃあ、コレでも行く?」

 壁のポスターを指差す。本間は特に反対もせず、「そうね」と頷いた。

 

 映画は、割と好きだ。無駄に長い人生を、2時間という僅かな時間とはいえ潰してくれるから。 

 あまり映画館で観る事は無かったが、偶にレンタルビデオ屋で借りてくる事がある。

 今から観るのは、ヒットした海外映画の新作だそうで、公開前から話題になっていた。しかし、僕達がいる映画館は寂れていて、人も疎らだ。本間に、映画館はどうするか、と訊いたらここに案内してくれた。

 だが、こんな場所で映画を観ているだけでは、本間の言うところの「訓練」にはならないと思うのだが、いいのだろうか? 僕としては人込みが嫌だったから、こちらの方が都合が良かったけど。

 館内には、映画のパンフレットやポップコーンなどを売っている売店に、トイレがあり、あとは一つばかりスクリーンのある大きな部屋があるだけだった。

 本間は「早く入りましょう」と言った。

「ちょっと待って」

 僕は飲物を買おうと、売店に寄った。

 缶ジュースを一本クーラーから取り出して、レジのおばさんに差し出すと、

「彼女の分はいいの? 嫌われるわよ」

「え……」

 返事に困った僕に、おばさんはもう一本のジュースを強引に握らせた。僕は、どうしよう、と少しパニック状態になった。

「いいから」

 その割にはしっかりと二本分の値段を請求している。なんだかなあ、と思いながらも今更いらないとは言えない。僕は想定していた値段の倍を払って、本間の所に戻った。

「あれ……何で二本?」

 本間は不思議そうな顔をした。

 僕が「あげるよ」と言ったら、本間は大袈裟なほどに喜んだ。何故だか知らないが、少し嬉しかった。

 

 スクリーンは小さく、部屋自体も小ぢんまりとしていた。観客も僕と本間の他には三、四人いるだけで、殆どが空席だった。

 一応は今日公開の新作映画を上映するのに、それは少なすぎるのじゃないかと思い、本間に訊いた。

「ここは元々潰れる寸前みたいな所だから」

「だからって、これは凄いな」

「何処も不況だから」

 知った風に言う。「そうなんだ」と僕は返し、適当な席に座る。本間も僕の隣に座った。

 

 映画の内容は、適当でありきたりだった。主人公が悪者を倒し、ヒロインを助けるという単純な物だった。スクリーンの中の役者は随分と格好つけているが、やってる事はスーパーマリオと変わらない。まあ、主人公はヒゲを生やしたチビでないし、悪役もカメの化物じゃないけど。

 やっぱり、誰にでも好かれるというのは、無個性でいるという事なのだろうか? あたりさわりの無い事だけをやっていれば、誰にも嫌われはしないだろうから。

 別に僕は誰かに好かれたいわけでは断じて無いが、そういうのは好きじゃない。

 そう思うと、何か冷めてくる。映画に集中できななった。スクリーンから目を離し、隣に座っている本間を見た。

 彼女は真剣に映画を見ているようで、それは睨むようにスクリーンを観ている彼女を見ればすぐに分かる。他の観客の様子も見たが、寝ていたりしていて、あまり満足している風では無かった。

 

「面白かったわね」

 終わって外に出たとき、彼女は言った。僕は曖昧な表情で同意した。

 時計を見ると、もう結構遅い時間になっていた。空ももう暗くなりかかっている。

「もう遅いけど……どうする?」

「……私、そろそろ帰らないと」

「そう、じゃあ帰ろうか」

 学校帰りにしては、家につくにはとても遅い時間になるだろう。そういえば家に連絡する事を忘れていた。

 駅までの道を、だらだらと歩いた。特に会話は無い。僕らはそのまま電車に乗り、「じゃあね」と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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